日本の空気環境基準は、建物や用途によって見るべき資料が違います。
ここがいちばん大事です。
CO2の1000ppmと1500ppmが並んで出てくる。
温度や湿度の数字も資料によって違う。
ホルムアルデヒドやVOCの話になると、さらに別の資料が出てくる。
この混線は珍しくありません。
理由は単純で、日本の空気環境は「1つの基準」で全部を見ているわけではないからです。
大きく分けると、まず見るべき資料は次の3本です。
- ビル・大きめの施設
→ 建築物環境衛生管理基準 - 学校
→ 学校環境衛生基準 - ホルムアルデヒドやVOCなどの化学物質
→ 室内空気中化学物質の室内濃度指針値
この3本を分けて考えるだけで、かなり整理しやすくなります。
厚生労働省は、特定建築物について建築物環境衛生管理基準に従った維持管理を求めており、特定建築物は原則として特定用途部分が3,000㎡以上、ただし専ら学校教育法第1条の学校は8,000㎡以上です。
文部科学省は学校保健安全法に基づいて学校環境衛生基準を定めています。さらに厚生労働省の室内濃度指針値は、シックハウス対策の参考にするための値として示されています。
この記事では、まず**「どの基準をどこで見るか」の地図を示し、そのあとに1000ppmと1500ppmの違い**、さらに用途別の見方を整理します。
結論を先に言うと、1000ppmが正しくて1500ppmが間違い、という話ではありません。
対象制度が違います。
CO2とVOCも同じではありません。
「基準」「指針」「目安」も同じ意味ではありません。
この3つを混ぜないことが、最初の一歩です。
日本の空気環境基準は、建物や用途によって見るべき資料が違う
最初に、いちばん混ざりやすいところを切り分けます。
日本の室内空気の数字は、だいたい次の3系統で見ると整理しやすいです。
1. 建物の維持管理として見る基準
これは、ビルや大きな施設で使う建築物環境衛生管理基準です。
CO2、温度、相対湿度、浮遊粉じん、一酸化炭素、気流、ホルムアルデヒドなどを見ます。
2. 学校で使う基準
これは、文部科学省の学校環境衛生基準です。
CO2、温度、相対湿度、浮遊粉じん、一酸化炭素、二酸化窒素、VOCなどを見ます。
3. 室内化学物質を見る指針値
これは、厚生労働省の室内空気中化学物質の室内濃度指針値です。
ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレンなど、化学物質ごとに示されています。TVOCには暫定目標値もあります。
ここを分けないまま数字だけ並べると、
「学校は1500ppmなのに、ビルは1000ppmなのはなぜか」
「ホルムアルデヒドは建築物環境衛生管理基準にもあるのに、室内濃度指針値にもあるのはなぜか」
「TVOC 400μg/m3と個別VOCの指針値はどう違うのか」
が全部こんがらがります。
先に言ってしまうと、資料ごとに目的が違うからです。
建築物環境衛生管理基準は、特定建築物の維持管理の基準です。
学校環境衛生基準は、学校の教育環境を対象にした基準です。
室内濃度指針値は、シックハウス対策の参考にするための値です。
数字だけ見るより、どの制度の数字かを先に見るほうが、ずっと実用的です。
まず見るべき基準の地図
迷ったら、まずこの地図で考えるのがいちばん早いです。
特定建築物ならまず建築物環境衛生管理基準
厚生労働省の「建築物衛生のページ」では、特定建築物は、
興行場、百貨店、店舗、事務所、学校、旅館などの用途で、
特定用途部分が3,000㎡以上、
ただし専ら学校教育法第1条の学校は8,000㎡以上
と整理されています。
この対象なら、まずは建築物環境衛生管理基準を見ます。
CO2、温度、湿度、浮遊粉じん、一酸化炭素、気流が中心です。
加えて、新築・修繕・模様替後にはホルムアルデヒドも見ます。
学校ならまず学校環境衛生基準
小学校、中学校、高校など、学校として見るなら、まずは学校環境衛生基準です。
文部科学省の学校環境衛生管理マニュアルでは、教室等の環境について、CO2、温度、相対湿度、浮遊粉じん、一酸化炭素、二酸化窒素、VOCなどの基準が示されています。
化学物質が気になるなら室内濃度指針値
新築、改修、家具、建材、接着剤、塗料、芳香剤、防虫剤など、化学物質由来の空気の話を見たいときは、厚生労働省の室内空気中化学物質の室内濃度指針値を見ます。
これは建物用途をまたいで、シックハウス対策の参考にするための値です。
非特定の施設や小規模施設はどう見るか
ここもよく迷います。
特定建築物に当てはまらない施設でも、人が多く使う建物なら、厚生労働省はビル管理法の考え方に基づく換気の考え方を参考にするよう示しています。
つまり、法の直適用がなくても、CO2 1000ppmや1人当たり30m³/時といった考え方は、実務上の目安として使えます。
CO2の1000ppmと1500ppmは何が違うのか
ここは、この記事の中心です。
結論から言うと、
1000ppmと1500ppmは、対象制度が違います。
どちらかが正しくて、どちらかが間違い、という話ではありません。
1000ppmはビル・換気の実務でよく使う数字
建築物環境衛生管理基準では、二酸化炭素の含有率は1000ppm以下です。
厚生労働省の換気資料でも、必要換気量の目安として1人当たり30m³/時を確保し、その確認としてCO2濃度を概ね1000ppm以下に維持する考え方が示されています。
このため、1000ppmは、ビル・施設・換気実務で非常によく使われる数字です。
1500ppmは学校基準で使う数字
学校環境衛生基準では、教室等の換気の基準として、二酸化炭素は1500ppm以下が望ましいとされています。
これは、学校を対象にした基準として使われる数字です。
では、学校は1500ppmだけ見ればいいのか
そこも単純ではありません。
文部科学省は2022年の通知で、学校環境衛生基準では1500ppmが基準だが、特定建築物に該当する学校では建築物環境衛生管理基準の概ね1000ppm以下もあり、そのうえで学校でもできる限り1000ppm相当の換気に取り組むことが望ましいとしています。
つまり、学校で1500ppmという数字がある一方、実務上は1000ppm相当も強く意識されている、という整理です。
ここをひと言でまとめるなら、こうです。
- 1000ppm
→ ビル・施設・換気実務でよく使う目安 - 1500ppm
→ 学校環境衛生基準で使う数字 - 学校でも1000ppm相当を意識する場面がある
→ 文部科学省通知で整理済み
この3つを一緒に押さえておくと、かなり混乱しにくくなります。
建築物環境衛生管理基準で見るもの
建築物環境衛生管理基準でまず見る代表項目は、次のとおりです。
- 浮遊粉じん:0.15mg/m3
- 一酸化炭素:6ppm
- 二酸化炭素:1000ppm
- 温度:18℃以上28℃以下
- 相対湿度:40%以上70%以下
- 気流:0.5m/s以下
- ホルムアルデヒド:0.1mg/m3(0.08ppm)以下
※新築、修繕、模様替後の最初の測定項目として整理されています。
ここで大事なのは、建築物環境衛生管理基準は「特定建築物の維持管理」の基準だということです。
全部の建物に自動で同じ義務がかかるわけではありません。
ただし、厚生労働省は、特定建築物に該当しない商業施設等でも、ビル管理法の考え方に基づく換気を参考にするよう示しています。
このため、対象外の施設でも、考え方自体はかなり参考になります。
ホルムアルデヒドは建築物環境衛生管理基準にも出てくる
ここは混ざりやすいところです。
ホルムアルデヒドは、建築物環境衛生管理基準にも出てきますし、室内濃度指針値にも出てきます。
ただ、扱いが少し違います。
建築物環境衛生管理基準では、新築、修繕、模様替後の最初の測定項目として整理されています。
一方、室内濃度指針値では、化学物質の室内濃度の参考値として整理されています。
同じ100μg/m3(0.08ppm)でも、制度の位置づけは同じではありません。
学校環境衛生基準で見るもの
学校環境衛生基準で、教室等の環境としてまず押さえたい代表項目は次のとおりです。
- 二酸化炭素:1500ppm以下が望ましい
- 温度:17℃以上28℃以下が望ましい
- 相対湿度:30%以上80%以下が望ましい
- 浮遊粉じん:0.10mg/m3以下
- 気流:0.5m/s以下が望ましい
- 一酸化炭素:10ppm以下
- 二酸化窒素:0.06ppm以下が望ましい
学校のVOC関係では、学校環境衛生管理マニュアル上、次の値が示されています。
- ホルムアルデヒド:100μg/m3以下
- トルエン:260μg/m3以下
- キシレン:870μg/m3以下
- パラジクロロベンゼン:240μg/m3以下
- エチルベンゼン:3800μg/m3以下
- スチレン:220μg/m3以下
ここで注意したいのは、学校基準は学校基準として読むことです。
建築物環境衛生管理基準と同じ項目もありますが、数字は完全に同じではありません。
CO2が1500ppmであること、温度と湿度の幅が違うこと、VOCの並びも学校用の整理になっていることが特徴です。
学校のVOC基準値は見直し予定がある
ここは2025年以降の動きとして押さえておいたほうがよい点です。
文部科学省は2025年2月の事務連絡で、厚生労働省の室内濃度指針値改定を踏まえ、学校環境衛生基準における揮発性有機化合物の基準値を令和8年4月頃に見直すことを検討していると通知しています。
あわせて、エチルベンゼンの新室内濃度指針値への対応を令和8年3月末を目標に進めるよう周知しています。
つまり、2026年3月時点では、学校基準側はまだ旧値ベースの部分があり、とくにエチルベンゼンは今後の見直しを前提に読んだほうがよいです。
室内空気中化学物質の室内濃度指針値で見るもの
厚生労働省の室内濃度指針値は、シックハウス対策の参考にするための値です。
2025年1月通知では、室内濃度指針値は、公衆衛生の観点から、化学物質の不必要な暴露を低減し、関係者がシックハウス対策に取り組むにあたって参考にしていただきたい値として策定しているとされています。
つまり、これは法的な一律の適合判定基準というより、化学物質を確認するときの参考値です。
代表的な指針値は、たとえば次のとおりです。
- ホルムアルデヒド:100μg/m3(0.08ppm)
- アセトアルデヒド:48μg/m3(0.03ppm)
- トルエン:260μg/m3(0.07ppm)
- キシレン:200μg/m3(0.05ppm)
- エチルベンゼン:370μg/m3(0.085ppm)
- スチレン:220μg/m3(0.05ppm)
- パラジクロロベンゼン:240μg/m3(0.04ppm)
- テトラデカン:330μg/m3(0.04ppm)
ここで2025年の大きな変更点として、エチルベンゼンの室内濃度指針値が3,800μg/m3から370μg/m3へ改定されています。
この数字は、学校基準の現行値とズレるため、基準を読むときの混乱ポイントになりやすいです。
だからこそ、今見ている数字が「学校基準」なのか「厚労省の室内濃度指針値」なのかを分けて読む必要があります。
TVOCは「暫定目標値」で、個別VOC指針値とは別に扱う
TVOCも混ざりやすい項目です。
厚生労働省は、TVOC(総揮発性有機化合物量)の暫定目標値を400μg/m3としています。
ただし、この数値は、毒性学的知見から決めたものではなく、国内の室内VOC実態調査の結果から、合理的に達成可能な限り低い範囲で決定した値です。さらに厚生労働省は、個別のVOC室内濃度指針値とは独立に扱わなければならないと明記しています。
つまり、TVOC 400μg/m3は便利な目安ですが、ホルムアルデヒドやトルエンなどの個別指針値の代わりにはなりません。
CO2とVOCは同じではない
ここは、かなり重要です。
CO2は換気の指標として使いやすい数字です。
厚生労働省は、必要換気量の目安として1人当たり30m³/時を示し、室内のCO2濃度が1000ppm以下であれば必要換気量を確保できるとみなすことができるとしています。つまり、CO2は、空気がどれだけ入れ替わっているかを見るための数字です。
一方で、VOCは化学物質です。
建材、接着剤、塗料、家具、防虫剤、芳香剤など、室内の材料や製品由来で出てくるものを見ます。
厚生労働省の室内濃度指針値は、この化学物質群に対して個別に設けられています。
つまり、
- CO2
→ 換気不足の手がかり - VOC
→ 化学物質の室内濃度の手がかり
です。
同じ「空気の数字」でも、見ているものが違います。
ここを混ぜると、
「CO2が低いからVOCも大丈夫」
「VOCが低いから換気も十分」
のような読み違いが起きやすくなります。
この2つは、別の軸です。
「基準」「指針」「目安」は同じ意味ではない
これも、かなり大事です。
基準
建築物環境衛生管理基準や学校環境衛生基準のように、制度として対象と測定項目が定められているものです。
誰に、どの建物に、どの項目を、どう見せるかが決まっています。
指針値
厚生労働省の室内濃度指針値のように、参考にするための値です。
2025年通知でも、関係者がシックハウス対策に取り組むにあたって参考にしていただきたい値と整理されています。
新しい知見で見直されることもあります。
目安
実務上の確認に使う数字です。
たとえば、厚生労働省が換気の目安として示すCO2 1000ppmや、特定建築物に当てはまらない施設でもビル管理法の考え方に基づいて換気を考えることなどがここに近いです。
法の直適用とは別でも、管理の目線として使われます。
この3つを一緒くたにすると、
「指針値なのに法的義務だと思ってしまう」
「学校基準なのに、すべての施設にそのまま当てはめる」
「目安なのに、満たせば全部終わりだと思う」
といった読み違いが起こりやすくなります。
資料サイトとしては、ここを分けておくことがかなり重要です。
結局、自分はどの資料を見ればよいか
ここまで読んで、結局どれを見るべきかを整理します。
ビル・大きな店舗・事務所・集会場など
まずは建築物環境衛生管理基準です。
特定建築物に当てはまるなら、ここが土台です。
CO2、温度、相対湿度、浮遊粉じん、一酸化炭素、気流を見ます。
新築・修繕・模様替後はホルムアルデヒドも見ます。
学校
まずは学校環境衛生基準です。
CO2 1500ppm、温度、湿度、浮遊粉じん、一酸化炭素、二酸化窒素、VOCを見ます。
ただし、特定建築物に当てはまる学校や、換気実務として見る場面では、1000ppm相当も意識されます。
新築・改修・におい・建材・家具・塗料などの化学物質が気になるとき
室内空気中化学物質の室内濃度指針値を見ます。
ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレンなど、個別物質で確認します。
TVOCは暫定目標値として別で見ます。
特定建築物には当てはまらないが、人が多く使う施設
法の直適用がなくても、ビル管理法の考え方を目安にして、CO2 1000ppmや1人当たり30m³/時を参考にすると整理しやすいです。
よくある誤解
「1000ppmが正しくて、1500ppmは間違い」
違います。
対象制度が違います。
1000ppmは建築物環境衛生管理基準や換気実務でよく使う数字、1500ppmは学校環境衛生基準で使う数字です。学校でも1000ppm相当を意識する通知はありますが、制度上の数字を雑に優劣で並べないほうが正確です。
「CO2とVOCは同じ空気の問題だから、どちらかだけ見ればいい」
そうではありません。
CO2は換気の目安、VOCは化学物質の濃度です。
見るべき資料も違います。
「室内濃度指針値は法律上の基準」
そうではありません。
厚生労働省は、室内濃度指針値をシックハウス対策の参考にしていただきたい値と位置付けています。
基準と指針は同じではありません。
「TVOC 400μg/m3を見れば、個別VOCは見なくていい」
これも違います。
TVOCは暫定目標値で、個別VOC指針値とは独立に扱うと厚生労働省が明記しています。
「この数字だけ見れば十分」
そこまで単純ではありません。
基準や指針は整理の土台にはなりますが、実際の運用では、どこで測るか、いつ測るか、空気の流れがどうかも大事です。
基準の数字と、現場の確認はセットで考えたほうが実用的です。
まとめ|数字だけでなく、対象制度を一緒に見る
日本の空気環境基準を1ページで整理するなら、まずこの3本です。
- 建築物環境衛生管理基準
→ ビル・大きな施設の維持管理で使う - 学校環境衛生基準
→ 学校で使う - 室内空気中化学物質の室内濃度指針値
→ 化学物質を確認するときに使う
そして、CO2の数字はこう整理するとわかりやすいです。
- 1000ppm
→ ビル・施設・換気実務の中心になる数字 - 1500ppm
→ 学校環境衛生基準で使う数字 - 学校でも1000ppm相当を意識する場面がある
→ 文部科学省通知で整理されている
さらに、VOCはCO2とは別の軸です。
- CO2
→ 換気の目安 - ホルムアルデヒド・VOC
→ 化学物質の濃度の目安 - TVOC
→ 暫定目標値で、個別VOCとは別扱い
この1本を土台にすると、次に読む記事もつながりやすくなります。
- 二酸化炭素濃度は何ppmからまずいのか|1000ppm・1500ppmの見方
- CO2センサーの正しい見方|どこに置くか、何を見るか、何ppmで考えるか
- 換気回数とは何か|教室・施設・部屋で足りているかの考え方
- 部屋が臭う・カビ臭い・空気が重い|CO2、湿気、結露、カビはつながっている
- 空気清浄機では二酸化炭素濃度は下がらない|なぜ換気が必要なのか
この基準記事でいちばん大事なのは、
数字だけを覚えることではなく、どの制度の数字かを見分けられるようになることです。
そこが整理できると、CO2 1000ppmと1500ppmも、ホルムアルデヒドとVOCも、だいぶスッキリ読めるようになります。
